一、御述作の由来本抄は、文永八(一二七一)年の末頃、大聖人様が五十歳の御時、佐渡において認められ、大尼御前に与えられたものと拝せます。本抄の御真蹟は、断簡が京都・妙顕寺(日蓮宗)ほかに散在しています。しかし、所授の人と日付は欠落していることから対告衆及び系年を断定することはできません。そのため特に系年については諸説があります。 本宗では、御真蹟の筆跡や本抄の内容を種々検討し、文永八年が妥当であるとしています。また対告衆については、女人成仏に関する教示があることから女性であると考えられます。さらに女性信徒のうち、系年との関連や本抄の内容から考え、大尼御前であると推定できます。 本抄を賜ったとされる大尼御前は、大聖人様の故郷である安房国東条郷(現在の千葉県)の人で、『清澄寺大衆中』に記された領家の尼と同一人物であると考えられます。『清澄寺大衆中』には、
大尼御前は、建長五(一二五三)年頃に大聖人様に帰依します。ところが、文永八年に大聖人様が竜の口法難、佐渡配流という大難に遭われたとき、大尼御前は法華経を捨てて退転してしまうのです。本抄は、竜の口法難、佐渡配流以後、大尼御前が退転して間もない頃のもので、それらを踏まえた上での教示と考えられます。 二、本抄の大意はじめに、善無畏三蔵の尊貴なる出自や中国唐代の真言宗の祖師としての事蹟に触れ、そうした善無畏三蔵が、頓死して地獄に堕ち、閻魔王の責めを受けたことや、法華経の文を唱えて人界に蘇生できたことを述べられます。次に、善無畏三蔵がなぜ地獄に堕ち閻魔王の責めを受けたのか、その原因について教示され、地獄に堕ちたのは世間の軽罪によるのではなく、ひとえに法華経誹謗の罪によると喝破されます。 続いて、伝教大師は顕教・密教をともに極めた人であり、その伝教大師は著書の中で、善無畏・金剛智・不空という真言宗の祖師たちが、かつて天台大師を本師と仰ぎ天台宗に帰依していたと記していると述べられています。 次いで、念仏を最勝とする法然の邪説を、道理や筋道に違背する大謗法の因縁であると断じられます。 また、三論宗の元祖である吉蔵大師が、辺執を捨てて天台大師に帰伏し、常に側にあって心から給仕をしたことを挙げ、しかるに真言宗・三論宗・法相宗の人々が、祖師たちの真意を悟らず、未だに自宗に固執していることは、法華経誹謗の大罪を招くと破折されます。 さらに、当時の浄土宗や禅宗は、天台宗によってすでに破折された真言宗や華厳宗にも及ばない宗旨であって、こうした浄土宗・禅宗の人師を信奉し後生を願う人々は堕地獄は必定であるけれども、法華経を信受するならば謗法の罪科を脱れることができると述べられます。 次いで、女人成仏が説かれているのは法華経のみであること、そして女人が謗法を犯さず法華経を持つならば、その功徳は甚大であると明かされます。しかし、法華経誹謗の罪ばかりは消滅し難いとされ、法華経に値遇できた女人は、罪障消滅のため身命を惜しまず仏道修行に精進するよう勧誡され、本抄を結ばれています。 三、拝読のポイント法華経誹謗の罪第一は、諸宗における法華経誹謗の様相、とりわけ真言宗の開祖である善無畏三蔵の法華経誹謗の様相を知ること、さらには法華経誹謗の罪がいかに大きなものであるかを知ることです。 大聖人様は、善無畏三蔵が頓死し地獄に堕ちた原因を、世間の軽罪によるのではなく、法華経誹謗の罪であるとされ、善無畏三蔵の法華経誹謗の説を二つの点から破折されています。 一つ目は、法華経と大日経は、理は同じであるが事の印と真言は勝れているとしたことです。すなわち善無畏三蔵は大日経の義釈に、大日経には本迹二門・開三顕一・開近顕遠の法門に加え、印と真言が説かれているが、それに対して法華経は、印と真言が欠けているので、大日経は法華経よりも勝れた経であるとしたことです。 しかるに、大日経には本迹二門・開三顕一・開近顕遠の法門などなく、印と真言も説かれていません。本迹二門・開三顕一・開近顕遠の法門は法華経に説かれる法門ですから、大日経にこれらの法門があると強弁するならば、善無畏三蔵は法華経の法門を盗み入れたということになります。また法門において劣る大日経を何とか法華経に勝る経とするために、教理を法華経と同等にするだけでなく、それに印と真言を加え、三密相応などと説いたのです。大聖人様は、こうした善無畏三蔵の邪説に対し、
二つ目は、善無畏三蔵が大日経の義釈の中で大日経を一切の仏教を統べた経であるとしたことです。大日経は法華経以前の経すなわち爾前経ですから、無量義経に、
大聖人様は、善無畏三蔵が地獄に堕ち、閻魔王の責めを受けた原因を、これら二つの謗法によると教示されているのです。 また、真言宗だけでなく浄土宗や禅宗も法華経誹謗であることは論を俟ちません。 大聖人様は、
法華経誹謗の罪は、本抄に、
女人成仏 第二は、女人成仏ということです。 法華経の『提婆達多品』では、竜女の成仏が現証として示されました。また『勧持品』でも、女人成仏の証として摩訶波闍波提比丘尼・耶輸陀羅比丘尼などの記別が明かされます。このように、法華経以前の諸経では許されなかった女人の成仏が、法華経に来たってはじめて許されたのです。 大聖人様は、本抄に、
ただし、爾前経では許されなかった女人の成仏が法華経において許されたとはいえ、過去世以来の法華経誹謗の罪を消滅することは容易ではありません。そこで大聖人様は、
四、結 び本抄から強く伝わってくるもの、それは大聖人様の破邪顕正の御精神です。本抄では、善無畏三蔵を開祖とする真言宗をはじめ、浄土宗・禅宗などの謗法を破折され、法華経こそ真実の経であり、成仏の法であると力説されています。今日に至っても、未だに真言宗や浄土宗などが蔓延っている現状を考えるとき、法華講衆として破邪顕正の精神をさらに強くしていかなければならないと痛感します。 本年は「破邪顕正の年」と銘打たれました。一凶である創価学会はもちろん、邪宗邪義に惑わされている多くの人々の邪を破し、正法を顕していくことが本年のテーマです。その上からも、
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