一、御述作の背景本抄は、建治三年(一二七七)三月二十一日、大聖人様が五十六歳の時、三位房日行に与えられた御書です。御真筆は現存しません。対 告 衆本抄を賜った三位房日行については詳細は伝わっていませんが、房州下総の出身で、早くから大聖人様の弟子となったとされています。 三位房は、大聖人様に比叡山留学を命ぜられるなど、学才は秀でておりましたが、性格的に虚栄心が強く、軽薄な面があったことが御書によって解ります。 比叡山に留学して間もない文永六年(一二六九)、某公卿に招待され、その持仏堂で説法をして大いに面目を施したと鎌倉の大聖人様に報告してきたとき、大聖人様は『法門申さるべき様の事』を遣わされ、
このように、虚栄心と軽薄さを併せ持つ三位房でしたが、竜の口法難には大聖人様に供奉して法難の渦中に身を投じ、さらに天台の学僧・竜象房との鎌倉・桑ヶ谷での問答では見事に論破するなど、功績もあったのです。しかし、最後には大聖人様に師敵対し、不可解な死を遂げたことが『聖人御難事』に記されています。 背 景本抄御述作の二年前、建治元年(一二七五)十二月二十六日、天台・真言兼学の僧強仁から、身延の大聖人様のもとへ一通の難状が届きました。これについて大聖人様はすぐに返書を認められ、
(御書 916頁) そして、翌建治二年正月の『清澄寺大衆中』には、法論のための経巻や、論釈の蒐 集をされていることがうかがわれます。しかしながら、強仁房との公場での法論対決は結局沙汰止みになり、年は建治三年に入りました。 しかし、門下の公場での法論の期待は高まり、この年の三月、三位房日行より法論に対しての質問があったのです。大聖人様はその諸宗破折の要点、方法を御教示され、あわせて、法論の態度などを御指南されました。 鎌倉・桑ヶ谷での三位房と竜象房との問答は、この年の六月九日に行われ、三位房はこれを見事に閉口せしめ、竜象房はその日のうちに姿を消したと伝えられます。 本抄は、このように大聖人様が予て望まれた公場での法論対決実現に向けての門下の機運と、緊迫した状況のなかでの御述作なのです。 二、本抄の大意はじめに釈尊滅後の正法時代には、教・行・証が具わっているが、像法時代には教と行のみあって証が無い。末法には教のみあって行・証が無いことを示され、末法は権実の二機が悉く失せて、在世結縁の者が一人もいないので、改めて衆生の心田に妙法を下種する時であることを示されます。次に、三つの問答を挙げられ、さらに末法に法華経が流布する文証を示されます。そして、諸宗の学者が三五の塵点(三千塵点劫と五百塵点劫のこと)の法華経結縁を忘れているという謗法を破折され、法華経を信じる利益を示されるのです。 次に、三位房 からの質問に懇切に御指南され、はじめに爾前経に執する者に対する破折を示され、次に真言・念仏の謗法を指摘され、その破折を御教示されています。さらに総じて諸宗の謗法を指摘され、また諸宗の祖師の臨終の現証を指摘され、それを破折する態度を御教示されます。 次に、法華経の他経に勝れる所以を示さ れ、天台・妙楽の法華正統の法門をもって慈覚・智証の台密(天台真言宗のこと)を破折あそばされ、さらに大聖人様の文底下種仏法に具わる本覚義を開示されます。そして、末法に本化地涌の菩薩が出現して、妙法蓮華経を弘通されることを御教示されるのです。 さらに別して律宗の良観に対する破折を示され、大聖人様の御出現によって、末法に教・行・証が具足した三大秘法の仏法が弘通することを示され、再度良観の卑怯未練の姿を破折され、最後に公場での法論に際しては、毅然とした態度で臨むよう御指南され、本抄を結ばれています。 三、拝読のポイント長編の御書ですので、ポイントを四つに絞って述べましょう。第一に、末法は一向下種益の時であるということです。本抄に、
第二に、折伏の心構えですが、本抄に、
第三に、慢心を戒めることです。冒頭に紹介したように、三位房は学才がありながら最後には師敵対して、正法の信仰を退転しました。 『聖人御難事』に、
(御書 1398頁) 本抄の最後にも大聖人様は、
第四は、大聖人様の深秘の御法門を、妄りに語ってはならないとの御指南です。大聖人様の甚深の御法門を無闇に語っては、
今、創価学会が血脈付法の御法主上人猊下を誹謗し、本宗の三宝破壊の大謗法を犯していますが、大聖人様の御法は深く尊いのであり、私たちは信心をさせていただいているのです。正直で、素直な信心をもって自行化他に精進し、決して御法を貶めるようなことがあってはなりません。 四、結 び今月一日から、本宗の檀信徒名簿に登録していない人は、本宗の信徒としての資格を失うことになりました。しかし、まだ知らないでいる人も多いと思います。一人でも多くの人に知らしめ、慈悲の教導をしてまいりましょう。「充実の年」の本年も残すところあと一ヵ月を切りました。明年は「革進の年」と発表されました。残る期間を充実した信心で過ごしましょう。そして、御法主上人猊下の御指南のもと、「革進の年」に大きな弾みをつけて精進してまいりましょう。 |
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